みんながやっているからといって、それが正解とは限らない。他人にはつまらない仕事でも、自分も同じだと思わないことが大切。世間の常識を疑うことで自分らしい人生が見えてくる。
2019年3月に東証マザーズに上場を果たした、NATTY SWANKYホールディングス(肉汁餃子のダンダダン)代表の井石裕二氏。フランチャイズを含む100店舗以上の展開を実現し、餃子居酒屋の大ブームを生み出した井石氏の意外な原点に迫る。
ただ通うだけの大学に意義を感じられず中退
─井石さんの原点を深掘りしたいので、子供の頃から遡ってもよろしいでしょうか
私は愛知県の出身ですが、幼稚園は宮崎で過ごして中学からは東京に落ち着いたという感じです。父の仕事柄、転勤族の家庭だったせいか当時の記憶があまりないんです。一箇所に根付かなかったため、人間関係やイベントごとの印象が残っていないのかもしれません。
─転校で次々に環境が変わることに抵抗はなかったですか
いじめられそうになったことはありますが、まわりに溶け込むのがうまいのか、特に人間関係で困った記憶もないですね。かといって、ヤンチャでもないけど大人しいわけでもなく、特に打ち込んだものも将来の夢もないという、絵にかいたような普通の子供でした(笑)。
─中学以降は東京に落ち着いて、地元は愛知より東京という感覚に近い?
私にとっての地元は東京ですね。そして高校を卒業後は明星大学に入ったのですが、大学生活は違和感しかありませんでした。例えば、八王子の山奥にある学校へ早起きして行くんですが、いざ到着すると「本日休講」と貼り紙されている日がある。そんなことは事前にわかってたはずだし、ネットで通知できる時代になんて非効率なんだと。しかもその講義分の授業料も返金されないのに、休講に喜んでいる学生たちも理解できなかったんです。何れにしても、このまま通う意義をまったく感じなかったので、1年の途中で辞めました。
サラリーマンには向いていないと感じた学生時代
─学生時代の経験でその後の人生に影響を与えたことはありましたか
それはあります。高校生の時は本の虫というくらい漫画にハマっていたんです。特に、ナニワ金融道や課長島耕作などはクラスの友人に読ませるほどでしたし、あの漫画で人生の基礎を学んだと思います。というのも、自分は父親のような働き方はできないだろうなと、漠然と感じていたんですね。まず、指示を待つだけの仕事は苦手だし、毎朝のように早起きするのも辛いなと。しかも、満員電車で定時に通勤するのを何十年も続けるなんて、私には無理だと思っていました。
「指示されたことを行い、決まった時間に出社と帰宅する人生を続けるのは無理だと思った」
─仕事そのものはどのように捉えていたのでしょうか
それが仕事は大好きだったので、学生時代からアルバイトは楽しく取り組んでいました。例をあげると、水産加工場ではレーンに流れてくる鮎をひたすら串で刺していきます。一見すると単純作業なので面白くないと感じる人も多い。しかし、それは単純だから面白くないのではなく、自ら先入観でつまらなくしているんです。ですから、常に私は「どうすれば早く刺せるのか」とか「どう刺せばきれいなのか」を考えていました。時には熟練の人を見て研究し、誰よりも早くきれいに刺す鮎ゲームとして楽しむわけですね。
上手くなれば職場での戦力にもなりますし、後輩のスタッフに指導することもできます。さらに、マネジメントと言うには大げさですが、人に教えることでさらに自分も成長できるんです。このように、ただ鮎に串を刺す作業でも、「結果を出す」「技術を高める」「コミュニケーションする」など、自分なりの目的を設定すれば、どんなアルバイトでも楽しめると思います。
アルバイトを楽しんだ延長線上にダンダダンがあった
─仕事というと、世間では辛いとか大変というイメージが一般的です
自ら「仕事はつまらないもの」と思い込むと本当につまらなくなりますし、さらにはジョブホッパーにも繋がりかねません。ですから、どんな職種でも自分なりに思考することで、仕事はいくらでも楽しくなります。仕事が楽しければ、自然に技術が磨かれたり信頼を獲得したりしながら出世だってできるんです。出世して収入が増えれば自信にも繋がるし、さらに大きな目標や夢に挑戦もできますよね。
よく何事も自分次第と言いますが、仕事の見方を変えるだけで、仕事の結果や未来まですべて変わってしまうんです。肉汁餃子のダンダダンが大きくなり、実績のなかった弊社が上場できたのも、鮎の刺し方に面白さを見出したことが原点だと思っています。ですから、特に仕事がつまらないと感じている人は、「夢は目の前にある仕事の延長」という意識で取り組んでみてください。
餃子とビールの相性を仕事として楽しんだ
─アルバイトを楽しんだように肉汁餃子のダンダダンが生まれたと
現在の副社長である田中と創業したのですが、最初の10年は思うようなスケールはできなかったんです。私と田中で2店舗ずつにはなったとはいえ、本社経費はゼロだしこのままでは従業員を昇給させてあげられない。そこでいろいろ考えた末、ふとした会話がヒントになったんですね。みんな餃子は好きなのに、気軽にビールと楽しめる店が無いなと。中華屋では可能なんですが、なかなか餃子とビールだけで帰るというのも気が引けますし。
「女性でも餃子とビールを楽しめる空間がなかったので自分で作ればいいと思った」と話す井石氏。
─確かに、中華屋での餃子はメインのお供というイメージかもしれません
おっしゃる通りです。するともう女性だけではお腹いっぱいで、とてもメインなんて食べられない。餃子とビールという、誰もが知っている鉄板の組み合わせを気軽に楽しめるお店がなかったんです。だったら自分がやってみようということで、調布に1号店をオープンしました。おかげさまでグランドオープンからご好評いただき、現在は130店舗を超えることができました。
ビジネスである以上もちろん苦労はありますが、仕事を楽しむ姿勢があったおかげで一度も嫌だと思ったことはありません。これからもみなさんにダンダダンをご提供しつつ、私も餃子とビールを楽しんでいきます(笑)。
─「真剣に取り組むことで、苦労だけでなく新しい発見や楽しさに気づくことができる」と井石氏。それこそが、本来の「充実した働き方」なのかもしれない。井石さん、本日は素敵なお話をありがとうございました。
会社名 | 株式会社 NATTY SWANKYホールディングス |
住所 | 東京都新宿区西新宿1-19-8 新東京ビル7階 |
代表 | 井石 裕二 |
設立 | 2001年8月1日 |
Web | https://nattyswanky.com/ |