仕組みとか効率化とか、数字を追うだけのビジネスには興味がない。お客さんが「美味しい!」と笑顔になれる飲食店が広がればいいし、そんな想いを持つ経営者たちと関わりたい。
2002年、ホルモン酒場 焼酎家『わ』を吉祥寺に創業。以来、大繁盛店の「肉山」、焼き肉「たれ山」、海老かつ「海老山」など、手がけた約60店舗すべてを繁盛店に育てた株式会社 個人商店、代表取締役の光山英明氏。実績と経営手腕が高く評価され、ファミリーマート×肉山の恵方巻コラボが2023年に実現。飲食事業やコラボ事業に全力で取り組む一方、決してスケールを追い求めない光山氏の原点に迫る。
月収10万円を稼ぎ出す小学2年生
─光山さんの原点に迫るということで、まずは幼少期のお話からお聞かせください
私は大阪の生野区出身で、3兄弟の末っ子です。家庭環境は割と自由だったので、勉強そっちのけで野球ばかりしていました。4年生から野球を始めたのですが、練習のない日は公園へ行って、一人でも練習するほどの野球少年。また、見ず知らずの子でも「一緒に野球しようや!」と声をかけるような、よく言えば積極的な子どもでしたね(笑)。その後、野球は大学まで続けましたが、高校までは常にキャプテンを務めていました。
─まさにリーダーシップのような、当時から周りを引っ張るタイプだったのでしょうか
確かに学生時代はチームキャプテンをしたり、大人になってからは光山会という食事会を開催したり、仕切り屋のような気質があるのかもしれません。元来の性格が、人の前に出て束ねたり、引っ張ったりするのが好きなんですね。
大阪生まれが商魂を育んだのかもしれない
─子供のころにお小遣いを自ら稼いだとお聞きしました
小学校2年のころ、近所のペットセンターで金魚を買ってきて、それを餌にして雷魚を釣ってペットセンターに売って1日5,000円ほど儲けていました。月で言うと10万円くらいでしたから完全な商人ですね。ただ、今ちょうど私の娘が小学2年生なんですが、改めてこんな小さな子が10万円と考えると笑ってしまいます(笑)。
「もらった10万円という数字ではなく、自分のアイディアで生み出したお金という流れが楽しかった」と幼少期を振り返る光山氏。
─小さな元手で大きなリターンを得る、教科書通りのビジネスモデルを小学生で会得していたと(笑)
確かに面白いですね。ただ、六本木のBAN×KARAを手がけた小田吉男さんも、小学生のころ同じペットセンターにカブトムシを売って収益を得ていたと聞きました。そう考えると、大阪出身者には商魂らしき素地が共通するのかもしれません。小田さんも事業をつくってから売却までのスピードが異常に速いんですね。しかも、ひとつの事業だけに固執せず、次々に進んでいく流れも似ているなと。会社をスケールさせたり、仕組み化して儲けたりという、損得だけの事業には興味がないんだろうなと共感しています。
ひとりでも成立する事業としてホルモン店を創業
─では、光山さんが起業に至ったキッカケについてお聞かせください
もともとの私は、特に起業したいという思いはなかったんです。ただ、母親が58歳で亡くなったことがきっかけなのか、エリート商社マンだった長男が「自分の好きなことをやる」と会社を辞めた姿が印象的でした。そんな兄の行動力に触発され、じゃあ自分もやってみようと思ったのが起業のきっかけですね。大阪の酒屋で10年ほど勤務した後の2002年7月15日、学生時代を過ごした吉祥寺に戻り、32歳で起業の準備をはじめました。
─はじめから飲食店と決めていたのでしょうか
飲食店を希望していただけで、細かな業態は決めていませんでした。とりあえず、オーナー店長として現場に立てれば良いという程度。ところが、いざ東京に来てみると、学生時代の友達どころか知り合いもいない。そこで、一人でも可能な業態を考えたところ、なんとなく牛ホルモン焼きならいけるかなと。当時の東京には見かけなかったですし、もちろん吉祥寺には一軒もありませんでした。
そうこうしているうちに10万円の物件があったので、金額はともかく即申し込みました。仮に売り上げが無ければ店舗で暮らせばいいと思ってましたし、当初は経費の考え方もありませんでしたから(笑)。その後、無事に吉祥寺でオープンさせたホルモン酒場 焼酎家『わ』が、私の飲食人生のスタートです。
投資すべきはビジネスモデルより経営者の在り方
─最後に、光山さんの今後のビジョンについてお聞かせください
シンプルに、飲食店と投資ですね。超カジュアルでサロン的な飲食店であれば現場に入るかもしれませんが、肉山のように立ち上げから現場に入って全国展開するようなお店は考えていません。ですから、現在は誰かに頼まれて一緒にお店を作るとか、もしくは投資の依頼があれば出資する感じですね。
─光山さんが出資を決める際はどのように判断するのでしょうか
そこは一貫していて、飲食の業態ではなく経営者の人間性を見るようにしています。この人なら「間違いなく逃げずにやってくれる」と思えることがいちばん重要。ですから、素晴らしい経営者なのであれば、おそらく自分が食べに行かないタイ料理屋でも構いません。もちろん、本人の希望によっては出資ではなく融資でもOKです。
「どれだけ流行ってるか、何店舗あるかより、経営者の人柄や在り方にしか興味がない」
─規模やビジネスモデルよりも、人としての在り方が重要であると
まさにおっしゃる通り。正直なところ、本当に良い人なら返済が遅れてもいいとすら思っています。わかりやすく言うと、「嘘をつかずに本音でやり取りできる人」にお金を出したいんですよ。そもそも飲食店は利益が少ないので、リターンを取ろうなんて思っていませんし、逆にリターンを取りすぎたらお店が潰れてしまいます。ですから、現在は飲食店への投資や融資と、普通の企業への投資に分けて活動しています。また、今年から来年にかけては新たな挑戦もしていこうと思っています。
稼ぎながらも浮足立たないという経営哲学が、入れ替わりの激しい飲食業界において長期経営を実現しているのだろう。それは一貫して投資への捉え方にも繋がっていた。今回の光山氏の話は、事業を手がける経営者たちの指標にすべき哲学である。
会社名 | 株式会社個人商店 |
代表 | 光山 英明 |
Web | https://note.com/wa1115/ |