不遇だった自分がフェアに生きるためには実力をつけるしかないと思った。小学生から労働を始め、挑戦の場に選んだ道は起業家。持たざる者が、夢を持って生きられる社会を実現する。
高校在学中にフィットネスクラブのトレーナーとして活動を始め、2012年には健康寿命に着目したヘルスケアベンチャー株式会社FiNC Technologiesを創業。2020年にウェルビーイングな社会を目指す株式会社WEIN GROUPを創業、2021年には株式会社BACKSTAGEを創業、現在は格闘技イベントBreakingDownのCOOや様々な分野で活躍中。孤独・退屈・不安を21世紀の課題とし、不条理な世の中を変えると宣言している溝口勇児氏の原点に迫る。
不遇な家庭環境と不条理に荒んだ少年時代
─すでに様々なメディアで語られてきたと思いますが、改めて生い立ちからお聞きかせください
一般的な言い方をすれば不遇な家庭です。父親は孤児院で生まれ育ち、両親も親戚もいない天涯孤独な境遇でした。一方、母親も素行の問題で高校を退学させられ、あまりにも悪すぎて親戚が一人もいないような人。できちゃった婚でしたが、私が3歳のときに離婚しています。シングルとなった母は自己破産も経験し、近代では珍しいほど貧乏な幼少期でしたね。そんな家庭環境の影響もあり、私もやさぐれた少年時代を過ごしました。
─ということは、中学生ごろの溝口少年は荒れた学生生活だったのでしょうか
悪ガキたちと遊んではいましたが、いわゆるヤンキーにはなりませんでした。私が悪いことをすると、元ヤンだった母が喜ぶんです。私が問題を起こして学校に呼び出されると、それを楽しそうに友だちと話している。当時はお互いの関係性が良くなく、私としては母を喜ばせたくない気持ちがありました。また、私自身も悪さを格好いいとは到底思えなかったので、自分なりには普通だったと思います。
─普通とはいえ、ケンカをよくしていたとお聞きしたことがあります
よくタイマンを吹っ掛けられたりや、他校の生徒に絡まれたりはしましたが、自ら悪ぶってケンカを仕掛けるようなことはしていません。
高校在学中からトレーナーのキャリアをスタート
─溝口さんは高校生の頃からお仕事を始められたそうですね
そうですね。高校はまともに行っていません。1時間目から行った記憶もほとんどないし、入学式も卒業式も出ていません。そもそも遅くまで働いてたので、まったく朝が起きられない。母の収入では厳しかったこともあり、小学生から小遣いや生活費を自ら捻出していました。小学生では新聞配達、中学の時は運送業で稼ぎ、高校の途中からは完全に社会人のように働いていました。
─通常の高校生だと違和感のある生活だと思うのですが、心境としてはどんな感じだったのでしょう
親の問題や、貧しい環境に違和感を持ったのは小学生の時です。ただ、小学生だとモヤっとしていただけ。自分は他の家庭と違うんだなという感覚が明確に顕在化したのは中学生になってからでした。ただ、高校の時はこれが自分の人生だと受け入れていたというか、すでになんの違和感も無かったです。
「貧しいとか不遇とか、不満を持ったところで何も変わらないじゃないですか。変えたいなら現実を受け入れて、行動するしかないですよね」と話す溝口氏。
─高校生でありながら、どんな仕事をされていたのでしょうか
フィットネスクラブのトレーナーです。資格を取得し、必要な試験に合格すれば、トレーナーとして働かせてあげると言われました。もともと体育の先生が夢だったし、そういう意味ではトレーナーは近い職業でもあったんです。
─なぜ体育の先生になりたかったのでしょうか
スポーツだけは誰よりも得意でした。校内のスポーツテストでは常に1位になるほど、身体能力も突き抜けていた。体育だけはいつも褒められたし、チーム戦で行う試合でも常に必要とされる存在でした。その反面、勉強はまったく好きではなかったので、自分が得意なことを仕事にしたかったんです。
フェアな人生を生きるために起業家を選択
─では、今回のコアとなるテーマとしてお聞きしますが、溝口さんはなぜ起業しようと思われたのでしょうか
適切に言うなら、起業のきっかけは複数あります。抽象度を上げて順に説明すると、私は幼少期から社会の不条理に敏感でした。いわゆる不遇な環境に対し、なぜ自分だけがこんな思いをしなければいけないのか。世の中ってフェアじゃないなと子どもながらに感じていました。
考えた結果、不利な人間がフェアに生きるためには、そもそも自分に実力がなければいけない。実力とは、影響力や動かせるお金、仲間などを指します。また、プロアスリートや俳優、ミュージシャンのような華やかな世界の人たちになるのではなく、起業家になって大きな実力をつけることが、社会の不条理に抗えるもっとも有効な手段だと考えました。
─その不条理は幼少期の家庭環境だけの問題ですか。あるいは別の面でも感じていたのでしょうか
感じていました。例えば、高校生の時に在籍したフィットネスクラブは、数人の正社員と100人ほどのアルバイトがいました。そのアルバイトの半数は、トレーナー業のみで食べていきたい人たちです。人気があればパーソナルトレーナーとしても生きられますが、決して安定しているとは言えない。ところが、安定のために社員を希望しても、社員になれるのは一握り。私は会社からの望みで社員になったのに、望んでいる人たちは社員になれない。会社は社会保障費などの経費面で社員を増やしたくないんですね。さらに、社員にしてしまうと簡単に辞めさせられないなど、人を扱うスタンスにも同意できませんでした。
不条理に甘んじず、変えるために力を付けた
─多くの会社で見られる雇用問題ですね
スポーツクラブ内でいちばん偉くなれば、不条理を変えられると思ってトップを目指したんです。のちに経営を任されるまでになり、社員の比率を一気に引き上げました。本気で頑張ってる人をすべて社員にし、同時にクラブの業績も伸ばしていきました。また、意思決定が可能なポジションになると、関わる相手が取引先の経営者になってきます。経営者の存在が身近になる中で、有能と感じる人は多くなかったし、逆に物足りなさがありました。もっとこうしてほしいとか、この会社はこうすれば伸びるのにとか、アイディアがたくさん浮かぶんです。ここまで課題やアイディアも浮かび、すでに力を持つ自分なら経営者として勝負できると確信しました。
─しかも、溝口さんはかなり早い段階で経営を学ばれたとお聞きしています
フィットネスクラブのトップになったタイミングで、とある経営塾に通い始めたんです。元大手企業のトップ陣たちが、限定5人ほどの門下生を集めて開催していました。講師は、ナイキの社長をやっていた人や、ルイ・ヴィトングループの社長などをやっていた錚々たるメンバー。25歳だった私は大きな影響を受け、より起業への想いが強くなりました。
持たざる人にきっかけを与える社会を実現したい
─では起業家としての溝口さんの今後のビジョンをお聞かせください
私は、20世紀が抱えていた課題を戦争・貧困・病気と定義しており、その感覚は世界も同じだったと思います。また、その3つを最初に克服したのは日本と言っても過言ではないでしょう。では、課題を解決したはずの今の日本人は幸せかというと、幸福度指数はほとんど伸びていません。多くが満たされているはずなのに、なぜ幸福度が伸びないのか。実は、幸せはポジティブな要素よりも、孤独・退屈・不安などのネガティブなほうに引っ張られると思っています。要は、孤独・退屈・不安がなければ、人は幸せだと感じるはずなんですね。
「孤独でつらい。挑戦する勇気がない。必要とされていない。これらの不安が消えない限り、日本人の幸福度が上がらないと考えています」
─課題が解決され、安心や安全が担保されているにも関わらず、まだまだ自死が多い現状は確かに憂うべきかもしれませんね
同感です。私は、“孤独・退屈・不安”を21世紀の課題と定義し、これらが少しでも減る領域に自分の時間を使いたいと思っています。世の中をピラミッドで分類すると、上層はいわゆるホワイトカラーの人たちです。一方で、下層にいる人たちのさらに下、持たざる環境で生まれた人や不遇な状況にいる人たちを少しでも減らしたい。
言い方を変えると、そういう人たちにとって、私がいる未来といない未来の差分の大きさが私の存在価値になる。持たざる者が奮起できるきっかけを作り、声を上げられる社会を実現し、弱い人たちが救われる社会を実現する。これからも私はその先頭を走っていきたいと思っています。
不遇な家庭環境ながら「中学生の頃には、これが自分の人生だと受け入れました─」と淡々と語る溝口氏。どんな環境に堕ちても決して腐らず、前向きに考えながら過去を信念に変える芯の強さがあった。誰よりも人の弱さをわかっている溝口氏だからこそ、持たざる者がスターダムに駆け上がれるBreakingDownを仕掛けたのも合点がいく。壮大なビジョンを掲げつつも、決して浮足立った言葉を使わない責任感の強さも溝口氏の魅力の一つ。そんな彼が率いるBACKSTAGEの未来が楽しみで仕方がない。
会社情報
■BACKSTAGEについて
私たちは、人々に人生の楽しみを届けるべく、表舞台で挑戦しているタレントやインフルエンサー、個人や団体を舞台裏でサポートするチームです。彼らの”想い”や”ストーリー”をカタチにし、世の中の多くの人を巻き込んで新しいコトを生み出せる方法や場所を一緒に作っていきます。事業開発・マーケティング・ファイナンス・テクノロジーなど、それぞれの分野のプロフェッショナルを総動員し、共に頭を悩ませ共に責任を持つ覚悟です。表舞台に立つ役者と未来へ伴走する縁の下の力持ちを担い、全力で最高のステージを作ります。挑戦する人たちを舞台裏で支えるのが、私たちBACKSTAGEの役目です。
■私たちの強み
弊社は「事業開発」「マーケティング」「ファイナンス」「テクノロジー」など、成長企業の様々な課題を解決できるプロフェッショナルチームがいます。お気軽にご相談ください。また人材も随時募集しております。
会社名 | 株式会社 BACKSTAGE |
住所 | 東京都港区海岸1丁目4-22 SNビル |
代表 | 溝口勇児 |
設立 | 2021年 |
Web | https://backstage.inc/ |
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